ライカと歩く台湾の神社

Posted on:May 12, 2023   at 11:51 PM
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台湾にも神社があるのをご存知だろうか。実は遺跡も含めるといくつかあるのだが、この桃園神社はその中でも最も完全な形で保存されている。こういうところに興味を持つようになるのは、やはり年をとった証拠なんだろう。

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駐車場から見えたのは、たなびくたくさんのこいのぼり。まさか台湾でこいのぼりを目にするとは。ぼくも初訪問だったので驚いた。

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風鈴も台湾にありそうで、あまり目にしないもののひとつ。こんな文化まで残されていたのか?と思ったが、どうやらそうではないらしい。後述するが、これらは近年になって設置されたものだ。

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かつてここには日本神道の開拓三神(大国魂命、大国主神、少彦名命)が祀られていたが、戦後、国民党政府によってその神格は否定され、神社から戦没者を祀る忠烈祠とその役目を変えた。日本と中華民国が断交した後、植民地支配の記憶そのものであるこの空間は、何度もその意味を問われ、解体の危機にさらされたが、それでも存続し続けた。

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やがて文化財となり保護されるようになった桃園神社は、2022年に日本の神社と連携して絵馬や風鈴などを設置し、御守などを販売するようになった。あわせて、日本の敗戦とともに「追い出された」大国主神や天照大神、豊受大神といった神格を呼び戻し祀るようになったが、それは宗教的空間の商業化であり、忠烈祠の意味を毀損していると一部の勢力から批判を浴びた。

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そうして社会が移りゆく間も、この建物と樹木は変わらずここにあり続けた。落ち着いた緑色と、湿度を感じるくすんだ茶色。空間の意味は変わっても、この色彩は — この色彩こそが、日本の神社という感じである。

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ライカ人生、最初の一本のレンズを35mmにすることは決めていたが、より華やかな印象のズミルックスにするか、堅実なズミクロンにするかは、大いに悩んだ。いやいや、ライカを持つからにはボケに頼らない写真を撮れるようになりたいんだ、というよく分からない理由で結局ズミクロンを選んだが、それでよかったと思う1。雑にボカそうと思ってもボカしきれないレンズを付けているという感覚のおかげで、画角を意識することの意味がだんだんと分かってきたような気がするのだ。

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台湾人の妻も、こんな場所が台湾に — それも台北近郊にあることを知らなかったという。それもそうだろう。かつてこの場所は、映画「KANO」の撮影舞台になった以外は、多くの台湾人にとって意味のある場所ではなく、訪れる人も日に10人程度だったという。ところが先述のように日本文化体験の出張所という役割を与えられてからは、休日には5000人以上の人出を見せているそうだ。

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日本以外の場所にある神社は日本人にとってなんとも複雑な心境を喚起させるもので、現地人にとっては植民地支配の記憶そのものであり、日本人にとっては帝国主義と戦争の時代の象徴であるが、その一方で自分個人にとっては懐かしい、帰るべき場所のような感じもある。このようなある意味でねじれた空間を文化的に開放し、建設的に再利用していくのが、台湾社会は本当に巧みだと思う。

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ライカのライカたる所以は出てくる写真の暗部にあるらしい。その意味するところがよくわかっているとはとても言えないのだが、暗い水面と石の表現に惹かれる。

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こんな切り取られた絵も、海外在住の身にはなんともノスタルジックに映る。台湾の廟の屋根はもっと賑やかでこんな色をしていない。苔ではなく、塗料で覆われている。

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今回唯一開放で撮影したもの。当たり前の話だが、ズミクロンではボケないと言っても、しっかりとそれを意識すればこのようにも撮れる。

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それにしても、影がなんと美しく写るカメラだろうか。シャッターを切るという決断をするということは、やはりなにかそこに良さを感じるからそうするわけだが、帰宅してからこの写真を見たときは本当にドキッとした。少なくともぼくの目には、こんなに美しいシーンには見えていなかった。


ここから先はオマケ。桃園神社の横には孔子廟もあって、ついでに足を伸ばしたのでそこの写真も何枚か貼っておく。

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趣は違うが、これもまた美しいものである。

1. まあ結局どちらも買うことになるから順番の問題でしかない、というのがライカユーザー諸先輩方の言うところであるが・・・。